北九州 PCB処理のこれまでとこれから

  • 2024年4月30日
  • 2024年4月30日
  • PCB関連

1968年のカネミ油症で社会問題となった有害物質PCB=ポリ塩化ビフェニル。2024年3月、国の事業として北九州市で20年にわたって行われてきた処理事業が終了し、ひとつの節目を迎えました。PCB廃棄物処理のこれまでとこれからをまとめました。
(NHK北九州局 玉本重陽)

PCBとは?カネミ油症で毒性明らかに

PCB=ポリ塩化ビフェニルは、人工的に作られた液状の化学物質です。かつては変圧器や安定器などに広く利用されてきました

その毒性が認識されたのは、1968年に問題が表面化した食品公害「カネミ油症」でした。当時、北九州市のカネミ倉庫が製造した食用油にPCBなどが混入。この油を口にした人たちに、皮膚の異常や肝機能障害などの症状が現れ、西日本を中心に広域にわたって健康被害を及ぼしました。

これをきっかけにPCBは1972年に製造が中止になりましたが、全国各地にはそれまでに生産されたたくさんのPCBが残されることになり、その処理が大きな課題となったのです。しかし、地域の反対などがあるなかで、その後30年以上にわたって、PCBの処理は進みませんでした。

北九州のPCB処理施設

その処理が動き出したのは、2000年代。国が全額出資した特殊会社「JESCO」が、高濃度のPCB廃棄物を対象に処理を行うことになり、施設は全国5か所に建設されました。

JESCO 北九州PCB処理事業所

その1つが若松区にある「JESCO 北九州PCB処理事業所」です。全国の処理施設で最も早い、2004年に稼働を始め、この20年間、主に西日本から集めた高濃度のPCB廃棄物の処理を行ってきました。

施設では、厳格な安全管理のもと、さまざまな方法でPCB廃棄物を処理。例えば安定器の場合、ドラム缶にまとめて入れたあと、1400度を超える炉で溶かします。処理で出た排気は、有害物質を取り除いたうえで排出します。

この20年間で、処理したPCB廃棄物は「変圧器」がおよそ2800台。「コンデンサー」がおよそ6万台。「安定器など」がおよそ1万トンに上りました。

情報公開ルーム

施設では、周辺の環境に影響を与えずに安全な処理を行うことに力を注いできました。地域に反対の声もあるなか「情報公開ルーム」を設置して環境への影響がないことなど、市民に公開してきました。

施設の解体作業の様子

今後、施設の解体が行われますが、施設内の床や壁などに付着しているPCBも安全に処理する必要があります。延べ床面積でおよそ2万平方メートルある建物は、6年後にさら地にする計画です。

JESCO
北九州
渡辺謙二所長

地元の方の理解があってできました。負の遺産を残すことがないように事業を続けてこられたことは非常に大きいことだと思っています。施設の解体を完了させ処理が安全に終わりましたと、地元の人に報告して終わりにしたいと思っています。

いまも続く 低濃度PCB廃棄物の処理

低濃度PCB処理施設内

一方、北九州市には、国の処理事業とは別に、危険性が比較的低い低濃度のPCB廃棄物を処理する施設があります。国の認可を受けて2010年度から処理を行っています。現在も月に数百トンが運び込まれていて、ここでは今後も稼働が続きます。

施設では、外部に有害物質を出さないよう隔離されたエリアで、防護服を着た従業員がPCBを取り出す作業を行っています。PCB廃棄物は焼却炉の中で、850度以上の高温で処理されます。国は低濃度のPCB廃棄物の処理期限を3年後の2027年3月末と定めていて、今後も地道な作業が続きます。

光和精鉱 
有働康之 
総務部長

これからどのくらい出てくるかは予測がつきませんが、皆さんが保有しているPCB廃棄物を出してもらうよう呼びかけて、処理していきます。最後まで安全に必ず低濃度PCBを無害化するという使命感を持ってやっていきたい。

今後のPCB廃棄物の処理は

PCB廃棄物は、「高濃度」と「低濃度」に分けられますが、環境省によると「高濃度」はほとんどがすでに処理済みです。一方、「低濃度」は、これまでにもかなりの量が処理されていますが、いまも工場などで使用中の機器もあります。「低濃度」は、所有者自身がPCBに汚染されているか把握していないケースもあり、国や自治体などが実態調査を続けています。

「高濃度」のPCB廃棄物が新たに見つかった場合、室蘭と東京の処理施設が残り2年は稼働します。「低濃度」は、北九州の会社を含む全国31の民間企業で処理しますが、処理の期限は3年後に迫っています。期限内に確実に処理できるように、国はPCB廃棄物に心当たりがある場合は、まずは自治体に相談してほしいとしています。

PCBが社会問題となるきっかけとなったカネミ油症では、いまも苦しんでいる人がいます。そしてPCBの処理は、半世紀以上がたった今も、完全には終わっていません。社会全体の責任として、最後まで安全に確実に処理を進める必要があります。

2024年4月26日 読むNHK北九州 より

 

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