「カネミ油症」国の調停申し立てから四半世紀 被害者仮払金の返還終了 家庭不和、自殺 … “残る心の傷” 

  • 2023年2月16日
  • 2023年2月16日
  • PCB関連

 カネミ油症被害者による国への損害賠償仮払金返還手続きが、昨年11月に全て終了していたことが分かった。国や原因企業などを被害者が訴えた過去の裁判に絡み、国が多数の元原告らに仮払金返還を求める調停を一斉に申し立て、「間接的被害」ともいえる深刻な影響を拡散させた問題は四半世紀を経て、一つの区切りを迎えた。

 油症事件は1968年に発覚。被害者は70~80年代、原因企業カネミ倉庫、油症の原因物質ポリ塩化ビフェニール(PCB)を製造した鐘淵化学工業(現カネカ)、被害拡大を防がなかった国などを相手に、第1~5陣の全国集団訴訟を起こした。このうち国は一部訴訟の下級審で敗訴し、原告829人に損害賠償金約27億円を仮払いした。だが86年の第2陣2審で、裁判所は一転して鐘淵化学工業と国の責任を否定。原告側は最高裁で逆転敗訴の可能性が強まったとして87年、訴えを取り下げた。

 元原告や遺族らは仮払金を多額の治療費などに既に充てていたが、10年後の97年、国は元原告や相続人計815人に返還を求める調停を一斉に申し立てた。油症を隠して生活していた被害者にも国から通知が届き配偶者や家族に知られ、家庭不和や離婚、自殺に追い込まれた人もいた。

 2000年代から再び救済運動が広がり07年、仮払金返還免除特例法が国会で成立。当時、返還の履行延期措置などを受けていた約500人が約17億円の債務を負っていたが大部分が免除に。一方、一部の該当者が返還を継続していた。農林水産省によると手続きは昨年11月に終了。返還した人は255人、総額約8億5900万円。

 長崎県五島市内の70代の男性被害者は「国は法律通りに履行しようとしたのだろうが、被害者の置かれた状況を理解していなかった。自殺者も出ており、遺族の心の傷など問題はまだ終わっていない」と語る。

 高崎経済大の宇田和子准教授(環境社会学)は「被害者は返還の義務が生じ、国に『借金を背負っている』という負い目を感じて被害が訴えづらくなった状況があった」と、国が被害者を追い詰めた点を指摘。「いまだに食品公害についての補償制度は整っていない。何らかのルール作りが必要だ」と強調する。

2023年2月15日 長崎新聞より

 

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