1968年のカネミ油症事件を機に世界的に規制されたポリ塩化ビフェニール(PCB)を多く含む廃棄物の処理費用が当初見込みの2倍以上の約9300億円に達する見通しであることが分かった。処理を担う国全額出資法人「中間貯蔵・環境安全事業」(JESCO)が明らかにした。処理が始まった2004年度の計画では4155億円だった。全ての処理を終えるのは29年度を予定する。戦後最大とされる食品公害の原因物質の処理には今なお多額の費用と時間が必要となっている。
処理工場は北九州市など全国に5カ所ある。JESCOによると、18年度までに約6795億円を投じて変圧器類約1万5千台、コンデンサー類約31万9千台などを処理。19年度以降は工場の解体、撤去費を含めて約2508億円かかる見込みだ。
費用が2倍以上に膨らむ背景には油症事件がある。欧米では低コストの高温焼却が主流だが、日本国内では安全性を優先し、より費用がかかる独自の化学処理方法を採用した。
当初計画では16年7月だった終了予定も、保管事業者からの申し出が遅れるなどして大幅に延びた。現在の計画では19~23年度に廃棄物の処理を終え、29年度までに全工場を撤去する。
04年末に全国に先駆けて稼働した北九州事業所(同市若松区)は21年度まで照明器具部品(安定器)などを処理する。変圧器類やコンデンサー類の処理は終えており、一部設備は解体を始めている。
環境省とJESCOは「04年度時点では予定になかった安定器などを処理したことで費用も時間も膨らんだ」と説明する。
処理費用は廃棄物を所有する企業など(全国約6万事業場)が負担し、国や自治体、企業が出資するPCB廃棄物処理基金が一部助成する仕組み。
PCBを最も多く生産したカネカ(旧鐘淵化学工業)などの製造業者は「製造、販売時点で法的に問題がなかった」(同省廃棄物規制課)として費用負担は義務化されておらず、自主的に総額約3億4千万円(16年度から4年間)を基金へ拠出した。カネカは取材に対し「環境省の依頼を受けて支払ってきた。今後については未定」としている。 (竹次稔)