西日本一帯で起きた国内最大規模の食品公害「カネミ油症」が、表面化してから50年となった。
本来なら、被害者の全面救済がとっくに図られていてしかるべきだが、今なお多くの人が体の不調に苦しみ、支援を求めている。
理不尽と言うほかない。政府や原因企業は被害の実相を直視して、患者認定基準の見直しや援助の拡充を急がなければならない。
カネミ油症にはさまざまな症状があるが、根本的な治療方法は見つかっておらず、次世代への影響も懸念されている。
被害者の不安を払拭(ふっしょく)するためには、医学的な検証も加速させる必要があろう。
カネミ油症の原因は、カネミ倉庫(北九州市)が1968年以降に生産した米ぬか油だった。
製造工程で、配管から漏れたポリ塩化ビフェニールや猛毒のダイオキシン類が混入し、口にした人は重い頭痛や皮膚炎、肝機能障害などに見舞われた。
ずさんな食品管理による被害者は約1万4千人に上る。
企業の責任に加えて見過ごせないのは、政府や国会の対応の遅れである。
被害者救済法が施行されたのは2012年のことだ。
患者には見舞金や医療費などが支払われるようになったものの、金額は十分でなく、他の公害被害に比べると大きな開きがある。
政府やカネミ倉庫が救済に後ろ向きなのは、最高裁で同社勝訴の判決が確定したことが背景にあるのではないか。
だが、判決は、不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅する民法の除斥期間に基づく。除斥期間をしゃくし定規に適用することには疑問が拭えず、この判決を免罪符にしていいはずがない。
むしろ、患者の認定基準が厳しいため、救済の網からこぼれ落ちる人が少なくない現実こそ、政府は重く受け止めねばなるまい。
救済法の施行から17年度までの申請者は約1200人だが、認定は約350人にとどまる。
差別や偏見を恐れて申請が遅れ、認定が困難になった人もいる。当事者の高齢化は進んでおり、認定基準の緩和は急務だ。
患者の子である「油症2世」が健康被害を訴えている問題は、近年、深刻さを増している。
政府も母から子への影響を一定程度認めるが、救済は進んでいない。油症は過去の話ではない。被害者に寄り添い、あらゆる手だてを尽くすべきだ。